FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 



鋼(マイキン)

廻過



心を震わす歓喜の音が鼓膜を突き破り

いずれ朽ち行く真実という名の理想は一瞥の元忘れ去られる

捜せ、探せ、二度と癒える事の無い記憶の傷を

目を凝らして決して忘れるな

私も貴方を忘れない





廻過-kaika- (前編)









「いい加減、面倒はやめにしませんか」

褐色に赤が映えた。
ほつれた白い髪の糸は無造作に流れ落ち、それが幹の太い首に微かに触れている。
軍服の青の下から覗くこの国では珍しい焼かれたような色が隆々と筋肉の起伏を主張し、そこを流れる僅かな赤い筋になだらかながら波をつけていた

「面倒というならまず、貴様のこの行動をそう呼ばせてもらおうか」

いつものサングラスは床で無残にも砕け散り、今やその獰猛の色を露わにした瞳がきつく睨みこんでくる。
紅い眼、血の瞳。
燃え盛る炎よりも滾りを潜ませるそれが轟々と憎念を湛える様は実に心地が良いものだ、私の好きな花火の中の一瞬の輝きにとても良く似ている。
マイルズ少佐、貴方の眼光は。

引き裂かれた皮膚から滲み流れた鮮血は紛う事も無い人間の色をしていた。
鼓動によって打ち出され、酸素を循環させ人の生命活動を一手に担うかくもか弱い人体の支配者。命の色。
素肌の上を傷口から申し訳なさそうに溢れ出るこの男の命、血液は、誇り高いというイシュバール人のものであるらしいけれど、そんなものはこうして見ているだけでは万人のものとさしたる違いもない。
それが可笑しくて自然に口端があがった

「良い色です。
 だがイシュバールのものなのかアメストリスのものなのか、こうして見れば同じですね。
ただの血という1文字にくくられる程度のもの。
 少々残念ですよ、しかしその眼は期待以上だ」

夜明けと朝焼けの狭間の刹那の瞬間にだけ相見える事の出来る鮮烈なフラッシュの様、グラスに注がれた甘味のない果実酒の様で、そして燃え流れる命の様で。
本来なら褐色という濃い色素の肌色には生まれない色だからだろうか、それともこの男そのものに火種があるのか、この眼にはひどく惹かれるものがある。
今、眉根を寄せて口元を歪ませ悔辱に耐える敵意剥き出しの男が、業火の瞳で私を見ているというのが堪らなく面白かった。
もしかしたら悦んでさえいるのかもしれない

床に散らばるサングラスの破片の一片を手にほくそ笑む私の姿はあなたにはどう映るでしょうか。
あなたの血を眼を見つめ嬉々とする人間をどう嫌悪するのでしょう。
見るからに体躯は有利であるのがわかるのに敢えて抵抗を抑え込んで堪えるその内情はどんな爛れ方をしているのです?
考えただけで心が躍る

「血を見て喜ぶ趣味があるとは、はなはな呆れた奴だ…。
 生憎だが私にそういう気はない。
 他を当るか自分一人で楽しめ」

「貴方にとって血とはなんです?」

苦し紛れの悪態を無視されてさらに顰めたその眉間についと人さし指を宛がってみる。
刻々と脈が伝わってくる感触が妙におかしい、短めに剃られた白い眉すらも一心に私を拒絶する。
それを感じるのが楽しくてしょうがない。
ああ、その音を直接聞けたらどんなに私は幸せになれるでしょうか

「この皮膚を剥ぎ、取り去ってしまえば私も貴方も中身は同じという事ですよ。
 血の意味もなどその程度のもの…
 被る皮の色が違うだけ、服とそう大差はない。
 滑稽なものです」

人は何故そんなものに拘り縋るのか、私などには到底理解できないそれに興味は尽きない。
親、子、血族、一族、直系、接系、たった一人の英雄が偶々生まれたとして、どうしてその気高さが血に宿ると言うのか。
よしんば宿ったとしてそれは本当に受け継がれるものなのか。
たかが精子に変わり女の卵と融合してその腹から生まれ出る、そこにある遺伝子は決してオリジナルと同一ではないのに何故皆をれに気付かない?

切り離されて分裂し、分割されて散らばり、その幾億の中から生き残った遺伝子が最も優れたものだったとして、オリジナルである人間を英雄に押し上げたのがその遺伝子に組み込まれている要素と同一だとは限らないでしょうに。
たとえどんなに才能に溢れていても開花させない者もいれば、たった一つしか優れていないのにその優れた部分を使わず栄華を極める者もいる。
それなのにその子や親や兄弟や酷い時には遠い親族までもが己の血を誇って讃え奉って行くのだ

「人の本質とは何か。そしてそれは何に宿るのか。
 たとえば私の血縁ならば錬金術に優れたものはいなかった。さらに言うなら幸いな事に私のような輩も一人もいない。
 ならば私の血が特別なのか、それとも酷く劣っているのか。
 もし劣っているならばその血族の中で何故私が最も生き残る力を持っているのか。
 そこに大きな矛盾が生じるとは思いませんか」

マイルズ少佐、貴方の中の血は貴方に何を教えたというのでしょうか。
いくつもの血を混ぜ持つその体に一体どれほどの価値がある?
隆々とした筋肉や骨組の中で奔り続けるマグマのような血液は、貴方に何をさせようとしている?

「…わからんな、貴様の様な人間がどうしてそこまで他人に興味を持つ。
 それを理解したとして何がある。
 心がいずれ還るべき故郷もなく、重んじるべき神もいない、そんな人間にそれを持つ人間の事などわかるわけもないだろう」

「私は唯、知りたいのです」

はた、と言葉に詰まるその喉を掻き切ったらどんな音色が聴けるのか?
爪を一枚一枚剥がしてそこを舐めてみたらどんな顔をする?
あやす様に触れたらその眼は何を滲ませる?
空気を奪ったら?足を失わせたら?眼をくりぬいたら?耳を潰したら?

それでも人が人でいる瞬間瞬間を何度も繰り返して見てみたい。

「―――ッ!」

酸味の強い鉄の味がじりじりと咥内に広がっていく。
一瞬だけ掠めた唾液に濡れた筋肉の感触、吐き出された息の二酸化炭素に詰まった味、裂けた傷などお構いなしに手で強く触れたら思っていたよりも冷たく固まりだしていた

強引に顎を引いた動きに反応が遅れたのを随分と後悔しているのか、先ほどまでとは比べ物にもならない表情が貴方を飾る。
憎悪、驚愕、信じられないものでも見たかのような眼と獣の威嚇の眼がぎらぎらと真紅に燃えていてとても鈍く輝いていた。

「貴様…!」

「おやおや、別に初めてでもないでしょうに何です。
 たかが口付けの一つくらい奥様とならもっと激しくするでしょう?」

「黙れ!」

奥歯を噛みしめる白い歯列も良く映える。
薄付き色の歯肉も見かけよりずっと硬かった。瞬時の事に反射的に私を押し出した舌だけが元の色より更に赤に近づいて剥き出しの敵意を放つ。
見事に犬歯にひっかけられた私の舌からじわりと滲む血の味が愉快で仕様がない。

汚れたものでも見るような侮蔑の眼差しは本当の貴方の性質でしょう。
ほら、こんなにも私の心が笑っている

「面倒は止めにしませんかといいましたね。
 なに、別に大した事じゃありませんよ。」

肌蹴たシャツを軽く引く。
褐色の肌の上を流れる赤い、細い、冷たい川にキスを落とせば伸びかけるその腕。
付け根の筋肉の筋を中指の爪でなぞったらすぐに反応をするくせに。

「どうせなら貴方も楽しみなさい」



刻みつけるには何よりも、怒りが必要なのでしょうから。




-------------------------------------------------------------

(中編へ続く)

-------------------------------------------------------------









スポンサーサイト
*Edit TB(0) | CO(0) Tag List  [ * ]   [ マイルズ×キンブリー ] 



~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


Back      Next


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。